一般ピープルなら一生に一度あるかないかのイベントかもしれないが、私にとっては通算4度目のイベントになる。慣れたものだ。
これまで名前が変わるというのは、受動的なイベントだった。
こう名乗れと言われることもなく、なんとなく察して、その通り使うだけの簡単な作業だ。
だが今回は違う。
めっちゃ能動的だ。
相手の苗字を名乗ることを決めた。
過去のことがあるので、誰かと同じ苗字を名乗ることに対する特別感は人より少し薄いが。
それでも、苗字を変えられることは嬉しい。
夫婦別姓という言葉もあるけれど、わたしは元の苗字に何の愛着も未練もない。
もし名乗るとしたら元の苗字じゃなくて、一二三とか、そういう芸名みたいなものがいい。
もちろん相手の苗字と同じになれるという幸せもある。
もとより物でもなんでも、おそろいは結構好きだし。
これはネガティブな発想かもしれないが、元の苗字から逃げられるのは喜ばしいことだ。
元の苗字は割と珍しい方だ。
しかも地元で同じ苗字の人はほぼ全員親戚だ。
今ではもう忘れ去られているが、10年前までは同じ苗字の有名人もいたため、肩身が狭かった。
自己紹介をすれば、あの人と親戚なの?と聞かれるくらいには名の知れた人だった。
親や親戚はいまだに実家のことを名家だと思い込んでいるし、誇りに思っている。
わたしはそんな家に嫁いだ母親の連れ子だったので、名家だの誇りだの、一切なかった。
(今もない。)
連れ子ゆえ、親戚からの風当たりは強く、よくいびられていた。親戚含めみんな大嫌いだった。
母親は自分を守るので精一杯、父親も助けてはくれなかった。
地元にいるうちは、苗字が本当に足枷だった。
どこの家の子か、名前を見れば分かってしまうのだから。
すこしでも繋がりのある子は、わたしのことを好きに噂していた。
そういうことがあって、大学生のときに勝手に家を出た。
苗字イコール有名人の親戚、という呪縛から逃れ、肩の荷が降りたようだった。
就職も名前の知名度が由来するから、地元では自由にできないな、と判断して、県から出た。
県から出てしまえば、ただの珍しい苗字。
気が楽だった。
実家から離れたら、まるで夢を見てるみたいだった。
結局、実家に振り回されてしまったけれど。
忌まわしき苗字になってから13年経って、やっと元の苗字から解放される時がやってきた。
新しい苗字で、心機一転だ。
自分にできること、使える力はすべてパートナーとの未来のために使いたい。
パートナーとおそろいの名前、珍しくない名前、すごく気に入っている名前。
姓名判断は最悪だけど。
願わくば、もう苗字が変わることはありませんように。